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アルケナル帝国の歴史

  • 作成者:TEK / 2013年6月5日:本採用。


この記録は、アルケナル帝国の歴代皇帝に仕えたといわれる皇帝顧問官デマーゼルが、帝国滅亡後に記した手記の一部である。デマーゼルの記録は、その経緯は定かではないが、アーベ公国大公家の収蔵品として、この地に長らく眠っていたらしい。かの邪竜騒動後、大公アルベトロ・フェンタールが、私財の被害状況を調べる過程で発見されたものである―――

帝国の始まり Edit

アルケナル帝国初代皇帝は、空の国より地上に舞い降り、大帝国を築き上げた。それは星霜の勝利の時代、深淵の森は大地の奥深くに追放された時代。今から1000年前(※注:アルケナル帝国の滅亡から300年過ぎているので、1300年前)――ファースト・エンペラーから、帝国は始まったのだ。そして、彼の時代に、深淵は打ち倒され、大陸の奥深くへと姿を消した。

様々な吟遊詩、物語、伝承は、ファースト・エンペラーとその光の軍勢が、深淵の大軍勢と長きにわたる、そして数えきれぬほどの大会戦を行ったと伝えている。しかし、真実はやや、違う。ファースト・エンペラーの御代は、巷で語られているほど、深淵との全面戦争が続いたわけではない。
もちろん、深淵勢力は頑強に抵抗し、大軍勢を呼び寄せて主要な領域を守ろうとした。しかし、要地が次々と失陥し、甚大な戦力を消失し、ファースト・エンペラーと光の軍勢に勝てないと判断した時に、深淵はその戦略を変えた。

――いわゆる、死んだふり、というものだ。

ガルクランのオーバーロードたちは、失うのが確実な領域の森を破棄し、パスツェルを保護し、戦略資源をできるだけ保存し、それらを最深へと退避させた。そして、次代へと続く後継者たちの安全を確保した後、地への戦いを挑んだのだ。
そう、それは、深淵の脅威が失われたと、星霜の者達に印象付けるための、華々しく散ることが目的の戦い。

概ね、彼らたちの狙い通りになったと言えるだろう。
破棄された深淵の森は急激に無人の土地となり、帝国の周囲には、果てしない広さの辺境が広がった。
ファースト・エンペラーに従った星霜の民たちは、その獲得した土地に入植し、社会を構築していくことに目を奪われ、それに腐心した。可哀想なエンペラー。彼は、深淵がただ撤退しただけだということは、分かっていた、。そして、私も、それを分かっていた――。

――それから700年。深淵は、虎視眈々と機会を伺っていたのは疑いの余地はない。アルケナルのあの偉大な帝国が、その大きくなりすぎた体を支えきれなくなるまで。

忍び寄る崩壊の足音 Edit

帝国建国から数世紀もすると、深淵はまるで世界にその存在がなかったかのごとく、星霜の前から姿を消した。勿論、オーガゴブリンサハギンギルマンなどの深淵種族は世界にはびこっていたが、ガルクラン深淵の森は、大陸の奥深くに姿を隠し、大自然が星霜世界と深淵の森の間に広がっていた。

帝国が、世界を律する時代が、到来したのだ。その偉業は世界にあまねく広がり、各地で育っていた様々な国々も、その威光を受け入れた。帝国の通貨ルクスや、度量衡、、そして帝国の言葉が、今でも星霜世界の広い地域で使われているのは、この頃に由来する。

だが、後世の者は、留意すべきである。帝国首脳は、勿論分かっていた。深淵との戦いはまだ終わっていないことを。歴代のエンペラーたちが、ファースト・エンペラーの遺訓として、胸に刻み込んでいたのだから。

そのために、設立当初から、帝国は、その国力を上げることに腐心した。思えばそこに間違いがあったのかもしれない。帝国の国力を上げるために、全土でインフラを整備し、繁栄し続ける国を運営するために、帝国は、莫大な人員を必要とした。アルケナルの平和は、それまで隔絶されていた世界各地の移動を容易にした。ファースト・エンペラーが蘇らせた『港』『門』が、それを後押しした。
――その結果、人々は、アルケナルの帝国首都を目指した。

建国から500年もすると、帝国は黄金期を迎える。深淵の森が消えて不毛の荒野として星霜が手に入れた広大な辺境も豊穣の大地となり、帝国は海も完全に制し、アルケナル帝国の中枢である「内陣」は絶大な繁栄を迎えた。だが、黄金期の繁栄に反比例して、辺境の力は衰微していった。

ファースト・エンペラーにとって、「永遠の都」と呼ばれし帝国首都 ―― かつての〈人〉の都 ―― は、事を始めるための壮大な舞台装置に過ぎなかった。しかし、数百年を過ぎた今や、帝国首都と内陣は、帝国が全てを賭けて護らねばならないものとなったのだ。
そして、そのために、そして、その結果、首都と内陣は、無数の人を吸い集め続けた。その社会は高度に発展し、高度に複雑化した。辺境を緩慢に弱らせながら。

アルケナル帝国は、世界を星霜の手に取り戻した。そしてその世界を守ろうとした。有能で忠実な人々がその滅亡の寸前まで統治していた。私もそれを微力ながら手伝った。だが、残念ながら、高度に発展し組織化された巨大な帝国は、いつしか、その巨大な体を支えきれなくなっていたのだろう。

深淵の大侵攻 Edit

――深淵が、待ち望んでいた時期の到来だ。目配りのできなくなりつつある辺境でメタモルスなどを使い、ほころびを広げていった。星霜メタモルスなどとは長い付き合いだ。彼らが派手に振る舞えば、容易に見破ることができる。彼らは、非常に密やかに、慎重に行ったのだろう。私やエンペラーたちの目につかぬように。

そして、建国から長い時が過ぎ――深淵は、ついに大陸の奥深くから反撃を開始した。

深淵が大侵攻をする前に、辺境のあちこちに、パスツェルがばら撒かれていたのは、今では明らかになっている。後はただ、それを活性化させ、深淵の森化させるだけの状態で置かれていたのを。彼らは、何百年もかけて、それを密やかに準備していたのだろう。まさに、蜘蛛の巣を、ひっそりと、広く、張り巡らすごとく。

突如として、津波のごとく深淵の森に飲み込まれていく辺境。迫り来る深淵の大軍勢。力の弱まっていた辺境は、そのような奇襲に対応する準備のできていなかった辺境は、為す術もなく、無数の星霜とともに、深淵に飲み込まれていった。

大儀式へ至るまで Edit

帝国が大儀式に至るまでは、4人の男が主要なプレイヤーとして関係した。

1人は、帝国宰相エルンスト・グロワーヌ。そしてもう1人は、宮廷魔術師ミューテリオン ―― ソーサラーシャーマンプリーストアル=グラム)を極め、史上最高の魔法使いと呼ばれた男だ ――。そして、ファースト・エンペラーからの遺産を受け継ぐエンペラーと、歴代皇帝の私的顧問だったデマーゼル、つまり私のことだ。
彼ら全員が、帝国と星霜世界を守る尊い気持ちを持っていたのは、疑いの余地はない。

帝国宰相エルンスト・グロワーヌ。彼は、帝国の政治と行政の頂点にいるものだ。長年の黄金期を経過し、そんな帝国を管理し続けた彼の視界には、帝国とは首都と内陣だけしか無かったのかもしれない。
彼は、辺境の放棄を、早々に決定し、皇帝に進言する。辺境にまだ残る価値ある資産と資源を首都に引き上げ、(彼にとっては最も重要な)帝国首都を守るために。それがあれば、深淵が突出した所を反撃して逆転できると信じつつ。

宮廷魔術師ミューテリオンは、ネアム古代図書館の最も奥深き場所に赴く。そこには、〈人〉の様々な知識があり、それがあれば、自分とエンペラーなら、ファースト・エンペラーの再来を再び起こすことも、可能だと信じて。そこで彼は、(帝国にとっては不幸にも)アグラ=イヴァナの御業を再現する秘術を、発見してしまう。彼がこれほどまでに素質ある魔法使いでなく、彼がこれほどまでに広範な魔術に精通してなければ、見つけられなかった技だ。

ミューテリオンは、アル=グラムの最高神官でもある。その彼にとって、この発見はナインズから授けられたものに他ならず、そして、帝国のこの苦境は、深淵にとどめを刺す ―― そう、自分とエンペラーが ―― 最大の機会と、見做した。そして、ここにおいて、ミューテリオンとエルンスト・グロワーヌの戦略は一致した。

―― 帝国の「内陣」を大地から切り離し、深淵を撃滅する。 
―― 深淵は、その森から遠く離れた地で、滅び去るであろう。
―― それが成功すれば、だが。

私は、その大儀式は、神ならぬ者には不可能な技だと分かっていた。
迫り来る破局を食い止めるべく、エンペラーの意思を変えようとした。

ファースト・エンペラーは、確かに、彼自身も強力だった。しかし、彼一人で深淵を打ち倒したわけではない。星霜の勝利を信じて、彼の光の軍勢が雄々しく戦ったからこそ、打ち倒せたのだ。
そして、エンペラーと、あまたの優秀な人材が揃う帝国には、それを再びやり遂げるだけの力は、まだあったのだ。もちろん、その過程で、帝国の繁栄は崩壊し、数えきれぬほどの人々が血を流し、帝国は再び初めからやり直さなくてはならなくなるだろう。だが、その覚悟があれば、深淵と戦うだけの力は、残っていた。

―― 完全な勝利を求めて道を誤ったと言うものもいるだろう。
―― だが、そうなのだろうか。より犠牲の少ない道を、求めたという方が、正しいかもしれない。

慈愛に溢れたエンペラー ―― 私の力が及ばず、ラスト・エンペラーなどと不名誉な名で呼ばれることになったことを、許してほしい ―― は、両者の言い分の間で、悩んだ。戦う勇気がなかったわけではない。
帝国を業火に投げ込み、帝国臣民の9割以上が犠牲になろうとも、それ以外の道がないならば、その道を雄々しく歩んだろう。しかし、ミューテリオンが差し出したプランは、より犠牲の少ないものだったのだ。彼は迷いながらも、そのプランを採用した。
そして、私は、エンペラーに接触する手段を全て断たれた。ミューテリオンとエルンスト・グロワーヌが、そうしたのだ。

大儀式後 Edit

――あとのことは、語らずとも分かるだろう

しかし、後世の者は、よく覚えていてほしい。帝国は滅びたが、深淵も勝利したわけではない。
帝国の滅亡は、深淵にも甚大な被害を与えたのだから。

深淵も ―― 雌伏し、牙を研いでいる間に
深淵も ―― 星霜の偉大なる帝国を討ち滅ぼす策を練る間に
深淵も ―― 本質を見失ったのだ

深淵にとって重要なのは、星霜世界を粉砕することのはずだ。世界全てを、深淵で染め上げること。
帝国を滅ぼすのは、その大きな第一歩だが、その先にも長い階段がある。
全力を傾けなければ帝国を倒すことはできない。それは、ナインズの名にかけて、疑いの余地はない。
だが、その意識が強すぎるあまりに、電撃戦で帝国を打倒しようと、急ぎすぎた。

帝国の「内陣」は、地政学的にも護られていた。内陣と外陣の入口となる都市はイスタークやガルハザード(※注:今のポート・ガルハザード)などしかなく、当然のことながら、帝国はそこに強力な防衛体制を構築していた。
そこで、深淵は竜の顎を超えて、内陣に大軍勢を送り込んだ。「アルケナルの防壁」と呼ばれる大山脈にある最も高い山で、その山の付近には2つの険しい桟道があったのだ。速やかに主力を竜の顎付近に集結させて、まるで、竜が吐く炎のように、そこから、一気に内陣に侵攻していたのだ。

深淵たちも、エンペラーが大儀式をしようとしているのは知っていただろう。その詳細は不明でも、その儀式が成功すれば、極めて長い時間の雌伏が無駄になるような何かをしようとしているのを。 ―― エンペラーがその儀式を成功させると信じて疑わなかったのは、深淵も同じなのだ。

―― そして、大儀式の失敗は、帝国の首都と内陣を、数多の人々を乗せて海の底に引きずり込んだ。
―― そして、同時に、内陣を侵略していた深淵の主力も巻き込まれて滅んだ。

私は、ローハルト航海王が、深淵勢力を押し返したとの報を聞きながら、この手記を記している。
深淵の主力が残っていれば、帝国の微かな威光しか残されなかったローハルト王が、それほど華々しい戦果を上げることはできなかったろう。恐らく、深淵はかの地を飲み込んでいたはずだ。

―― このことは、私の心にもかすかな希望をもたらす。

人間は、帝国を失い、瀕死に至ったが、まだ死してはいない。
そして、受けた傷を癒すことが出来るだろう。
それは、おそらく、ガルクランの受けた傷よりも、早く、塞がるであろう。
私はそれを確信している。

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