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SandBox/ある男の話 のバックアップの現在との差分(No.2)


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このページは、世界観を感じてもらうことを目的にcfGMが勝手に書いている不定期連載小説「ある男の話」のインデックスページです。

*ルアーブルの港に降り立って [#d95e8e0a]
* 本編 [#s1e1e74f]
SandBox/ある男の話①
SandBox/ある男の話②
SandBox/ある男の話③

 照り付けてくる乾いた日差しの下、私は石畳の上に一歩を踏み出した。
「――その荷物は向こう、あそこだよ! ほら、後がつかえてる! さっさと行きな!」
 赤毛の女船長の声に急かされて、私はふらつく足でせっせと麻袋を運ぶ。
 中身はクオ麦だろうか。漂う潮の匂いが私の鼻腔を刺激する。 ――すぐそこの海からの匂いかもしれないが。
 それにしても、人が多い。こうして船から降りて少し見回すだけでも、百人は見えるだろうか。
 貿易港…… なのだろうか、ここは。中規模の船がいくつも停泊し、筋骨隆々の船夫たちがせっせと積荷を降ろしている。私のように筋骨隆々でないものもいるが、手際は良い。
「そら兄ちゃん、きょろきょろしてっと転んじまうぞ!」
「あ、ああ。済まない」
 そうしていると、後ろから陽気な笑い声を伴う声。
 見れば、同じ船内で何度か顔を見た、熟練の船員だった。
「ここは貿易港なのか?」
「そういう区別じゃねえな。ここは中型船――ほら、喫水があるだろ? 船の底から水面までの距離だ。あれと船のガタイで区別してんのさ」
「――ああ、なるほど」
 何故、とは言わずにその船員は私の疑問にすらすらと答えてくれた。
「ここはドルフィンポートつって、向こう側にはもっと小さいのが泊まるシャークポート、向こうには大型船が泊まるホエールポートがある。その向こうは軍港だな」
「そういう区別か」
 船員が指したその方向を見つつ――街並みと小高い丘に阻まれて見えはしなかったが――私はようやく背中の麻袋を、同じような麻袋の山の隣へと置いた。

「お疲れだったね。さ、ここがルアーブルさ。夢を掴んでおいで」
 女船長にそう言われて背中を押され、私は晴れて一時船員から自由の身となった。
 先程は麻袋を運んでいた私だが、何も船員というわけではない。あの女船長の貿易船に載せてもらう代わりに、一時の船員として働いていただけだ。
 個人的には旅船で優雅に来たかったが、そうもいかなかった。私はラクナウの方から乗ってきたわけだが、向こうの海運ギルドでルアーブル行きの旅船の部屋の値段相場を聞いたら、2000rkからだと言われたからだ。海賊どもの縄張りの近くを通る航路か、遠洋を通る遠回りの航路か。どちらにしても危険で金がかかるとのことだった。
 払えないわけではなかったが、路銀の半分以上が飛ぶ。安いのか高いのか分からなかったので躊躇われるというのもあった。そこでその場で相談してみたところ、あの女船長が船員を募集しているとのことだったので、頼み込んで片道船員として雇ってもらったのだ。
 ちなみに二隻からなる小さな海賊が沿岸での道中一度だけ襲ってきたが、私があわあわしている間に、女船長が直々に三連バリスタを打ち込んで撃退していた。
 一応、給金も受け取っている。キリよく1000rk。高いのか安いのかは、やはり分からない。それなりの大金であることは確かだが。しかし、もし2000rk払っていた場合との差を考えると、3000rkの得をしたことになる。そう考えると凄いのかもしれない。
「――ようし、そら兄ちゃん、飲みに行こうぜ!」
 ばんっと力強く背中を叩く逞しい掌。見れば、やはりあの船員だった。他の船員たちもいる。
「仕事の後は飲んで寝て、クオ=ルート様のケツを拝む夢を見ながら明日に備える! お決まりだ! さあ行こうぜ!」
「その表現は多少いかがなものかと思うが。しかし、いいのか?」
「こまけえことは気にすんな! アグ=ヴァ様にケツの穴が小せえって怒られちまうぞ!」
 がっはっはと豪快に笑う船員。
 あまり断れる雰囲気でもないので、私は多少引け目を感じつつも、彼らの好意に甘えることにした。
「分かった。君たちとの出会いをクオ=ルート神を基としたナインズに感謝を」
「そうこなくっちゃな!」
 船員たちは道々、見目のいい女たちや、港沿いの小バザーの露天に視線を向けつつ、最寄りの酒場へ。
 看板を見る。 ――ふらつく海猫亭。どうやら船夫たち御用達の店であるらしく、店内は昼を過ぎてしばらくだというのに、喧騒で満ち満ちていた。
「よく冷えたドランカラムをくれ! レモンの輪切りも頼む!」
「待ってな!」
 注文の声に威勢良く答えるのは、見目の良い娘。小さめの体型の割に、発達した上腕筋はドワーフだろうか。ドワーフは海の傍では仕事をしないと聞いたものだが、迷信は迷信ということらしい。 
「無事に港の土を踏めたことに乾杯!」
 熟練の船員の音頭で、私たちは乾杯を交わし、飲んで食べて、そして歌った。
 とにもかくにも、私はこうしてルアーブルにたどり着いたのである。

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