ホーム > SandBox > ある男の話③

SandBox/ある男の話③ のバックアップ差分(No.2)


  • 追加された行はこの色です。
  • 削除された行はこの色です。
*contents [#m1556198]
#contents
[[SandBox/ある男の話]]
[[SandBox/ある男の話②]]
* 神の膝元 [#q813fd60]
*ウッドノッチ開拓村 [#q813fd60]
 私とベルは日が落ちる寸前、開拓村の門が閉じられる丁度のタイミングでそこに到着した。
 懸念していた襲撃がなかったのは幸いで、それがあれば一日遅れていただろう。
「良かった。門が閉じられて以降は、その日は開けない村もある」
「夜は深淵の時間だからな。致し方ない」
 村の畜舎にプーレとヒューイを留めさせてもらい、私達はまず村を訪れたその用件を村長へと伝える。
 村長は初老を迎えた40代の男性だった。腕っ節はそう強いわけではなさそうだったが、通してもらった応接間の棚に写本と思しき本が多く見えたことから、学を積んだ指導者なのだろう。
「こんなお時間に我らがウッドノッチ開拓村へよく来てくださった、冒険者どの。道中はいかがでしたかな」
「ゴブリンが出る、と聞いていたけれど、道なりには何もいなかった。襲ってこなかっただけかもしれない」
「そうでしたか…… こちらでは見張り番がちらほらとゴブリンらしき小さい影を見たと申しておりましてな。皆、不安にかられております」
 茶に預かりながら出た話に、私はベルの横顔を見る。
 見た目には私よりもずっと年下だが、この時は私が今まで見た中でもっともプロとしての風格が出ていたように思う。
「して、何のご用件でしたでしょうか。ゴブリンの討伐の依頼は、まだ出していなかったかと思いますが」
「ト=テルタのルアーブル・テンプルからの使いで来た。この村にロバーツという神官がいると思うけれど」
「はい、確かに。彼は我々が誇るこの村の住民ですが」
「彼がテンプルから呼ばれている。 ――書状はこれ」
 ベルは村長にメリアから預かった書状を手渡した。
 村長は、失礼、と一言断り、書状にあるト=テルタの封印を認めると、ナインズ共通の祈りを切ってから封を開けた。
「――確かに、相違ないようです」
 そう言って書状を検めた村長の顔には、皺がひとつ多く刻まれていた。
「……いや、しかし、困りましたな。ト=テルタに嫌われるようなことをした覚えは、ないのですが」
「困ったというと――」
「ゴブリンの件か」
「はい」
 挟んだ私の言葉に、村長は深く頷く。
「先程も申し上げましたが、ゴブリンの件で村人たちは不安にかられております。ロバーツ君はこの村では自警団長と狩人頭に並ぶ実力者で、この村唯一のプリーストです。彼が今抜けることは、村長としては……」
「なかなか了承しにくい相談だということか」
「もう数日待って頂ければありがたいのですが…… あるいは」
 言って、村長は私とベルを順番に見つめた。真剣な眼差しは、私たちが村の危機を任せるに足るかどうかを測るものか。
 ここまで来れば、この先は言わずとも分かった。
「急な話になりますが、あなた方をお雇いした上で、ゴブリンの脅威を払って頂ければ、と」

ページ新規作成

新しいページを投稿できます。

TOP