SandBox/ある男の話② のバックアップ(No.2)
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神の膝元 †
ト=テルタのテンプルは中に入ってからが更に豪華絢爛だった。
シンプルながら出来うる限り装飾された柱。幸運に纏わる様々なレリーフが刻まれた壁。それらに支えられた、緻密な文様と鮮やかさを誇るステンドグラスを持つ高い天井。
どれもが計算された規則正しい比率の元に成り立っており、悪趣味さを感じさせない。
中央奥に鎮座する神像は、やはり豪華だ。取り敢えずはそのぐらいしか言葉が浮かばないぐらいには。
「流石はルアーブルのテンプル、と言うべきか」
「何か違うの?」
「私の故国の王都に負けてない」
私とベルはゆっくり前へと進み、適当な位置で祈りを捧げる。時間は少し長めに取っておく。
それが終わったら、神像の前へ。
「あれか。 ――流石に大きい」
目当てのものを見つけて、私は懐の小金袋からルクス金貨を一枚取り出した。
それは、ルクス貨が幾枚も沈む、聖水が満たされた口広の壷――寄進壷だ。
やや遠間ではあったが、私はふっと金貨を投じ、ちゃぽんと寄進壷の中へと投じることに成功した。この成否が重要であるとされ、中には成功するまで続ける人もいる。
ベルも銀貨を投じ、ちゃぽんと一投で成功させた。
「よし」
ちらと見ると、少し満足げな笑みを口元に浮かべている。なかなか可愛らしいところもあるものだ。
そうして踵を返した時、神官の一人と視線が合った。
金髪をロングにした、美女だ。人間の二十代、豊満な身体を金と白の法衣の下に押し込んでいる。
その彼女は私に会釈をすると、徐に歩み寄ってきては私の隣にいるベルの前に立ち、その艶やかな薄赤の唇を開いた。
「ご寄進をありがとうございます。ト=テルタ神のご笑覧がございますよう。 ――特にベル、あなたには」
そう言われて、私は右斜め下を見る。ベルは先程の笑みはどこへやら、仏頂面で神官の彼女を見つめ返していた。
「知り合いか」
「うん。元スラム仲間」
『元』が幾分か強調されていたのは、気のせいではないだろう。
そんな微妙な視線を知ってか知らずか、神官の彼女は改めて私に向き直ると、もう一度会釈をした。
「申し遅れました。ト=テルタ様にお仕えする神官の一人、メリアと申します」
最初の仕事 †
メリアと名乗った彼女は、私とベルを聖堂の端の方へと導き、そこで話を再開する。
「それで、ええと。あなた様は?」
「昨日、ラクナウの方から船に乗って。新たな安息の地を求めて来た」
「まあ、それは。長旅、お疲れ様でした」
言いながら、メリアはさりげなく私を見た。その視線の動きは、ベルが私を見た時のものと極めて近かったように思える。
「宿が取れずに途方にくれてたから案内してあげた」
「それは良いことをしましたね」
「それほどでもない」
ベルが頷く。暴利を貪ったことを付け加えたなら、本当にそれほどでもない。
「ト=テルタさまも手間が省けてお喜びだと思いますよ。 ――さて、ベル。少し手は空いていませんか」
「何?」
「今日の今、ここであなたに会ったのも縁。折角ですから、あなたに頼みたいことがあるのです」